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交通事故による男性の外貌醜状と逸失利益

交通事故による男性の外貌醜状と逸失利益

男性の外貌醜状の後遺障害の事案では、逸失利益の認定は、個別の事案、事情を勘案して、裁判上、判断されています    

外貌醜状に関する自賠責の後遺障害の等級表については、平成22年6月10日以後に発生した交通事故により負った傷害がもとで、外貌醜状の後遺障害を残すに至った場合、男性も女性も、同じ基準により、その程度により、「外貌に醜状を残すもの」(12級14号)、「外貌に相当程度の醜状を残すもの」(9級16号)、「外貌に著しい醜状を残すもの」(7級12号)に該当する後遺障害がそれぞれ認定されることになした。

しかし、実際の裁判事例においては、男性の外貌醜状に関しては、労働能力にどの程度の影響を及ぼすものか、個別の事例に応じて、判断している側面もかなりあります。

そこで、最近の裁判例において、男性の外貌醜状の事例において、どのように逸失利益が判断されているか、見てみたいと思います。

交通事故による外貌醜状による逸失利益の裁判事例

  大阪地裁H27.2.24(控訴中)
事案の概要 被害者(19歳男性)はランニング中に倒れ、加害車両と交錯。顎顔面骨折、顔面挫創、歯牙亜脱臼等の傷害を負う。
後遺障害に関する裁判所の認定結果

右頬部の瘢痕(3.8cm×2.2cmの黒色痕、その右上に3cm×1.5cmの黒色痕)について、現行の12級14号を裁判所が認定。

また、右頬部分の鈍痛について、神経症状の14級相当という枠を超えた判断はできないと指摘

逸失利益に関する判断部分

① 外貌醜状は、原則的には、労働能力に影響するものではない

②他方で、醜状痕は、複数で、12級該当の事案の中でも重い部類に入る

③ 現実にアルバイト(喫茶店の接客)に支障が出ており、また、被害者は若年で、今後の職業選択の中で、外貌醜状が一定の制約となる可能性も否定できない。

なお、

㋐ 鈍痛についての神経症状は、14級の中でも軽微な部類に入る。

㋑ 鈍痛箇所と外貌醜状箇所は同じであり、2つの症状が相まって(鈍痛による表情の不自由等)、労働能力への影響を大きくしている

逸失利益の結論 311万5500円×0.05×4.329=67万4350円

後遺症慰謝料

280万円

上記の内容では、労働能力喪失率5%と喪失期間5年を前提とする逸失利益の算定方法を見る限り、14級の神経症状による後遺障害残存事例と変わらず、しかも、被害者には、14級の神経症状の残存による後遺障害も認定されているため、外貌醜状に関する逸失利益は、ほとんど考慮されていないようにも、見えます。

しかし、判決自体、神経症状自体は、頬部に生じたもので14級の枠内でもかなり軽微であり、四肢や身体中枢部の神経症状と比べると、労働能力に与える影響は限定的とも指摘していること、また、被害者について、今後の職業選択や、現状のアルバイトに、外貌醜状が一定の制約となり、また、なる可能性を否定できないとしていることからすると、上記の逸失利益の算定は、かなりの部分、外貌醜状による労働能力に対する将来的な影響を考慮した結果とも解釈できます。

また、逸失利益の算定の上での基礎収入を、全年齢の平均賃金をもって高めに計算している点も、被害者側の救済に配慮した結果とみることもできます。

他方で、後遺症慰謝料に認定額は標準的な裁判基準によっています。この点については、逸失利益を控えめに算定しつつ、後遺症慰謝料を増額する事例もあることと対比できます。

いずれにしても、少なくとも、職業選択の可能性の高い若年者や、接客業については、やはり、男性であっても、外貌醜状に関する逸失利益を一定程度認める傾向は裁判上認められますが、やはり女性と比較すると、控えめな認定になると考えられます。

交通事故による外貌醜状の裁判事例

 

東京地裁H26.1.14

 

事案の概要 被害者(27歳男子演劇研修生・アルバイトとび職)
後遺障害の内容 左眉上部から下部にかけて6㎝の線状痕12級(現行9級16号)
逸失利益の判断の理由

①左眉部の線状痕は、俳優として活動する際には、何らかの支障になる可能性はあるが、具体的に支障が生じていることを認めるに足りる証拠はない。

②事故当時は、芸能活動により収入はなかったが、事故後、芸能活動による収入が入るようになった。

③俳優として成功するかどうかは、様々な要因によって左右されるものであること

以上より、左眉部の線状痕によって、被害者が、俳優としての職業から将来得べかし収入が減少したとは認められない

逸失利益の判断 否定
後遺症慰謝料 700万円(9級の標準は690万円)

上記の事例においても、逸失利益は否定されており、被害者が、事故後、芸能活動をしていることを考えると、やや厳しめの判断のようにも思われます。

ただし、被害者については、事故後、研修を終了して芸能活動を開始するようなってからも、それによって生計を立てることができる程度までの収入には至っておらず、このような状況についても、上記の線状痕が影響しているとは、直ちに認定できない状況であったことも判断に影響したものと思われます。

被害者が、事故当時、芸能活動で十分な生計を立てることができる状況で、このような後遺障害が残っていたとしたら、男性であっても逸失利益は肯定される方向になった可能性が高いのではないかと考えられます。

交通事故による外貌醜状の裁判例(相応の逸失利益を認定した事案)

  東京高裁h28.12.27
事案の概要 被害者(25歳男性)には、顔面下顎の正面に長さ4㎝の挫創治癒痕(自賠責12級14号)が残っている
裁判所の判断

本件治癒痕は、被害者と相対する者が受ける印象に相当の影響を与えうるものである

被害者は、音楽大学を卒業後、舞台俳優を目指して現に、歌手やダンサーとして舞台活動をおこなっている

舞台活動においては、外見の均整も重要な要素であることは否定しがたい

今後、被害者が、オーディション等において役を得る際に、本件治癒痕の存在を理由に、不利益な扱いをうけるおそれがある

よって、本件治癒痕は、労働能力に影響を及ぼすものと認められる

今後も舞台活動を続けることが見込まれる。仮に、舞台活動を離れたとしても、本件治癒痕の存在は、一般企業への就職活動等においても不利益に働きうる

逸失利益

被害者(症状固定時25歳)は、事故により、本件治癒痕の後遺障害を負ったことにより、67歳に達するまでの42年間にわたり、5%の労働能力を喪失した

524万1000円(H25男子労働者全年齢平均)×0.05×17.4232(42年間のライプニッツ係数)=456万5749円

上記裁判例では、男子の外貌醜状による逸失利益を相当程度認めたものです。原審が認定した逸失利益が100万円であったことからしても、かなりの増額認定したものです。

上記裁判例においては、被害者の職業が重視されたことは明らかですが、25歳という年齢や、仮に、舞台活動を離れたとしても、本件治癒痕の存在は、一般企業への就職活動等においても不利益に働きうると述べていることからすると、年齢や転職の可能性についても、一定の配慮をした上で、逸失利益認定の判断材料としているとみることができます。

上記裁判において、加害者側の反論に対する裁判所の判断内容も興味深いものです。

 

逸失利益の認定に対する加害者側の反論 裁判所の判断
被害者は、舞台活動を行う際にはメイクしており、治癒痕は目立たない。観客からその存在を指摘されたり、役を失ったこともなく、将来的な危険性が現実化する可能性は極めて低い

控訴人は、治癒痕を隠すため今まで以上にメイクを厚くしなければならなくなり、かる、コンサートでは、通常メイクはほぼしないものであるが、その場合でもメイクをするようになったというのであり、現に舞台活動に影響が表れているのであり、また、新しい役を得るにあたり、治癒痕の存在が、影響する可能性は否定できない。

現在まで、観客から、治癒痕の存在を指摘されたり、役を失ったことがないとしても、そのことから、将来にわたり労働能力への影響が現実化する可能性が低いとはいえない

被害者は、準社員として働いている会社においても不利益な扱いを受けたことはなく、外貌の美醜による仕事への影響はない 被害者が舞台俳優を目指して舞台活動を続けている以上、準社員として働いている会社において不利益な取り扱いをうけていないからといって被害者の労働能力に影響がないことを裏付けることにはならない
具体的かつ直接的に労働能力の喪失や現実の収入の減少が生じているとはいえず、職務上の対人関係が困難になっている等の事情もないから、被害者の外貌醜状が、労働能力に影響を及ぼす危険は極めて限定的であり、逸失利益の発生はない 裁判所の逸失利益の認定の判断を左右しない

上記のような、加害者側の反論と、これに対する裁判所の判断をみると、やはり、この事案においては、被害者が舞台俳優を目指して活動していたという点が、かなり重視された結果、相応の逸失利益の認定に至ったとみることができます(ただし、12級にかかわらず、労働能力喪失率は5%にとどまっている点も注意が必要です)

 

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