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交通事故による傷害慰謝料の算定事例

交通事故による傷害慰謝料の算定事例

具体的な事例に即して、考えると慰謝料基準に別表Ⅰと別表Ⅱのいずれを適用すべきか微妙な事案も少なくありません。   

これまで、説明したとおり、交通事故によって負った傷害の治療のために入通院したことによる慰謝料の金額については、裁判上は一般的な基準がある程度、明確になっている状況ではあります。

また、他覚的所見のないむちうちによる通院の場合で、通院期間が長期にわたるような場合には、通院実日数を3倍した期間を、慰謝料の算定のための基礎となる治療期間とするという考え方も、かなり有力です。

もっとも、具体的な事案に即してみた場合には、通院状況や、通院期間、傷病名もまちまちで、むちうちを前提とするいわゆる別表Ⅱを適用すべきか、それ以外の傷害事案として別表Ⅰを適用すべきかについて、判断に迷う事案もなくはありません。

そこで、具体的な事案に応じて、裁判所が、どのように傷害慰謝料を算定しているかを考えてみたいと思います。

交通事故の傷害慰謝料の算定事例(その1)

  横浜地裁H21.9.10(控訴中)
事案の概要 直進のバイク運転者と、対向の右折自動車との衝突事故。被害者の診断名は、左手打撲、挫創等。被害者は、左手関節の背屈時の痛みや、右胸部痛を訴えるが他覚的所見はないとの判断
治療期間 H19.6.16からH19.12.19までの6か月間通院
通院慰謝料(裁判所の判断) 110万円
被害者側の主張 155万円(入院に匹敵する苦痛を受けた)
加害者側の主張 90万円
別表Ⅰを適用した場合の慰謝料額 116万円
別表Ⅱを適用した場合の慰謝料額 89万円

上記の内容からみると、裁判例では、別表Ⅰを適用したものとと考えられます。現在の別表Ⅱの適用範囲を見ると、「軽い打撲・軽い挫創(傷)」を含むともされており、別表Ⅰを適用すべきか、別表Ⅱを適用すべきか、やや判断に迷う事案かも知れません。もっとも、被害者の医師の診断書によれば「左手関節挫傷右肋軟骨損傷」との傷病名の診断もなされたため、別表Ⅰとなった可能性もあります。

 

交通事故の傷害慰謝料の算定事例(その2)

  千葉地裁H24.5.30(確定)
事案の概要 居眠り運転の加害者の対向車によるセンターオーバー衝突。エアバックとダッシュボードに上半身と下半身を衝突。その際、打撲や挫傷負う。その後、エアバック等の圧力により押し戻され頸部及び腰部捻挫。
治療期間

①原告Aは、H21.7.31からH22.1.30までの6か月間通院(実日数24日)。ほぼ同じ期間に接骨院にも117日実通院。

②原告Bはもほぼ同程度の通院

 

通院慰謝料(裁判所の判断) 116万円
被害者側の主張 120万円
加害者側の主張

他覚的所見のないむちうち(別表Ⅱ)

別表Ⅰを適用した場合の慰謝料額 116万円
別表Ⅱを適用した場合の慰謝料額 89万円

上記の内容でも、別表Ⅰを適用しています。

この点の裁判例における説明では、いわゆる別表ⅠやⅡの基準も、一応の基準に過ぎず、裁判所は、個別事件に応じて、自由な裁量により慰謝料額を算定できると述べています。

また、他覚的所見のないむちうちにより慰謝料を減額する理由は、低速の追突事案をある程度想定していると考えられること、本件のような加害車両によるセンターオーバーの事案で、被害者が、傷害を負ったことが、明白な場合にまで、減額を肯定する理由は乏しいこと等をあげています。

実際、傷害の慰謝料額の算定については、別表Ⅰと別表Ⅱの適用の区別を、裁判官によっては、それほど厳密に行っていない場合もありうるという印象もあります。また、上記の事例では、病院への通院が少なく、接骨院への通院頻度が高い点も、目につきますが、このあたりを慰謝料算定にあたってどう評価するかも、裁判所の裁量の働く部分という立場もありうるようです。また、このような立場からすると、実日数の3倍の期間を慰謝料算定の際の上限の目安とするという考え方も、かなり相対化されるのではないかと思われます。とはいえ、別表Ⅰと別表Ⅱの適用を厳密に判断する立場に立つ裁判官も少なくないとは思われます。

また、この事案では、居眠り運転によるセンターオーバー事故であり、事故態様が悪質であったという側面から、慰謝料を増額する余地もあったかも知れません。

交通事故の慰謝料の算定事例(その3)

  京都地裁H23.11.11判決(確定)
事案の概要 追突事案。被害者は、事故の1年半前に右上腕骨折による偽関節の神経症状もあったが、今回事故により、さらに、背中中央の疼痛が加わった。
事故後の通院期間

H19.2.3~H19.9.25(通院期間8か月)

診断傷病名 胸椎打撲、頚椎捻挫、両肋骨骨折の疑い
被害者の主張 132万円(別表Ⅰに基づく)
裁判所の認定

65万円(別表Ⅱによれば、通院4か月程度に対応する)

事故後の通院治療は、既往の症状に対する治療もかねていたことをも考慮

上記の例では、自賠責の非該当の判断にも関わらず、14級を認定し、労働能力喪失率10%、労働能力喪失期間7年と判断し、後遺症慰謝料も150万円(一般基準では110万円)とみとめつつ、傷害慰謝料については、別表Ⅱを適用し、事故後の治療費も半分は既往症に対応したものであるとして、治療費の請求も半額のみ認めたのに対応し、傷害慰謝料額も、通院期間の半分程度に対応する額にとどめたものと考えられます。被害者については、事故後の背中の疼痛については、CRPSによるものとの主張もなされましたが、これについては認定されなかったものの、後遺障害に関連する部分の損害は、疼痛の程度に応じて、増額されたようです。裁判所が、14級を認定し、後遺症慰謝料の増額していることからすると、単なるむちうちと区別し、別表Ⅰによって傷害慰謝料を算定する余地もあったかもしれません。

交通事故による傷害慰謝料の算定事例(その4)

  東京地裁H28.4.26判決(控訴棄却、確定)
事案の概要 追突事案。被害者の診断傷病名は、外傷性頚肩部症候群、腰椎捻挫
事故後の通院期間

H16.5.18~H17.3.10(通院期間10か月)

診断傷病名 外傷性頚肩部症候群、腰椎捻挫
被害者の主張 253万円(ただし、症状固定時期に争いあり)
裁判所の認定

100万円(別表Ⅱによれば、通院7~8か月程度に対応する)

上記の例では、具体的な説明はありませんが、実際の通院期間と比べると、傷害慰謝料の認定額は、やや控えめな感じがします。この事案では、通院期間中の医院への実通院日数が18日にとどまるのに対し、整骨院への通院日数が152日と多かったため、このような事情が、傷害慰謝料の算定に反映された可能性も否定できません。このような事例をみても、慰謝料の算定は、裁判所の裁量が働く余地が少なくない部分であると考えることも可能です。

交通事故による傷害慰謝料の算定事例(その5)

  横浜地裁H26.6.26判決(確定)
事案の概要 追突事案。被害者の診断傷病名は、頚椎捻挫、頭部打撲(脳脊髄液減少症の主張もなされたが判決では否認された)
事故後の通院期間

H22.6.7~H23.10.12(通院期間16か月)、通院実日数は35日、別に、脳脊髄液減少症の治療として、h23.9.1~h24.5.30まで、15日の通院があったが、事故との相当因果関係は否認

診断傷病名 頚椎捻挫、頭部打撲
被害者の主張 182万円(ただし、症状固定時期に争いあり)
裁判所の認定

123万円(別表Ⅱによれば、通院16か月程度に対応する)

上記の例では、16か月と通院期間が長いものの、通院実日数は、35日と少なめではあります。傷害慰謝料については、むち打ち症について、通院期間が長い場合には、実通院日数の3倍程度の期間を慰謝料算定のための目安とするとの説明がなされることが多いですが、上記の事例をみても、そのような画一的な処理が常になされていないことが分かると思います。

交通事故による傷害慰謝料の算定事例(その6)

  横浜地裁H27.11.16判決(控訴中)
事案の概要 追突事案。被害者の診断傷病名は、頚椎捻挫、腰椎椎間板ヘルニア、左膝半月板損傷等(脳脊髄液減少症の主張もなされたが判決では否認された)
事故後の通院期間

H17.1.21~H17.8.20(通院期間7か月)、通院実日数は90日、別に、脳脊髄液減少症等の治療として、h17.8.21~h25.3.1までの治療期間を被害者側は主張したが、裁判所は、脳脊髄液減少症の発症を否認し、h17.8.21~以降の通院と本件事故との相当因果関係を否認した

診断傷病名 頚椎捻挫、腰椎椎間板ヘルニア
被害者の主張 330万円(ただし、症状固定時期に争いあり、被害者の主張は98か月の通院と脳脊髄液減少症の検査ないし治療のための入院4日を含むもの)
裁判所の認定

97万円(別表Ⅱによれば、通院7か月程度に対応する)

上記の例では、裁判所が被害者側から8年以上の治療期間を主張されたもので、前提となっている傷病名は脳脊髄液減少症ですが、裁判所は、脳脊髄液減少症の発症を否定し、頚椎捻挫の治療による通院を前提に、別表Ⅱのとおりの傷害慰謝料額を認定したものです。事故日から、2か月後のh17.3.1~受診した整形外科では「半月板損傷等」の傷病名が付されていますが、仮に、これと事故との相当因果関係が肯定されていれば、別表Ⅰになるのが自然と思われますが、事故との相当因果関係が明確でないとの判断に至った可能性があります。

事故後の神経症状による通院が長引く場合、脳脊髄液減少症や胸郭出口症候群などの聞きなれない傷病名が診断されるケースが多いのですが、これらの傷病名についての裁判所の発症の有無に関する認定は、かなり慎重に行われているのが実際のところで、仮に著名な大病院の医師により、かかる傷病名な診断されたとしても、裁判上、このような傷病の発生が認められるとは限らないので、注意が必要です。

また、このような傷病名な否定されると、これにかかった治療費も否認され、また、この治療のための治療期間に対応する傷害慰謝料も認めらないことになると考えられます。

なお、上記の事例では、被害者は身体障害者等級3級に認定も受けていたものですが、裁判所の認定する後遺障害等級は14級にとどまったようです(同3級の障害については、事故との相当因果関係を認めなかったのではないかと考えられます。)

 

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