宮重法律事務所

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自営業者の方の休業損害について

自営業者の方の休業損害の認定については、会社員の場合と異なり、勤務先作成の休業損害証明書のような書類が出ないことや、事故前と事故後を比較した場合の減収の有無や額について、認定が必ずしも容易でないことから、休業損害の発生の有無やその金額について、争いになるケースが少なくありません。

また、これとは、別に、自営業者に特有の問題として、営業所や事務所、店舗を、事故による治療のために一時的に閉めているが、その後の復帰のため、テナントの賃貸借契約は維持し、休業中も賃料の支払いを継続しているたり、備品のリース契約料金を支払い続けているような場合に、その、支出を損害とみるべきかどうかいう問題もあります(これについては、原則として損害として認められますが、その範囲を整理する

必要があります)。

自営業者の休業損害については、現実の収入減があった場合に認められるというのが、原則とされています。

その資料としては、事故の前年度の確定申告書の内容と、事故日以降の確定申告書の内容が比較されることが多く、ここで、仮に、この書類の比較上、所得(売上-経費)の減少が生じていないのであれば、休業損害の請求は認められにくくなります。

 

例外的に、申告所得に事故前と事故後で変化がないが、以下のような事情があることを考慮して、休業損害の請求を認めた事例として、以下のようなものがあります。

(家族の協力が認められる事例)

機械部品の販売、メンテナンスを業とする被害者につき、申告所得上、事故前後で、減収はないが、その理由は、息子が、被害者本人に代わって事業を維持していることによるもので、事故後の所得は、実質的には、当該息子の収入であるとして、事故による減収を認めた事例(名古屋地判H26.12.8)

鍼灸師の資格を有し、柔道整復師の資格を有する妻とともに整骨院の事業を行う被害者につき、事故後の収入は、事故前と変わらないが、その理由は、被害者の息子の協力によるものと認められるとして、請求を認めた事例(大阪地裁H12.3.7)

(事故後、相当期間は、減収がないが、相当期間経過後に減収が出た事例)

縫製染色業男性について、平成7年から営業をはじめ(申告所得32万円)、事故のあった平成8年には、営業活動の効果が現れたため、事故後、休業していたのに所得が増加し(申告所得310万円)、平成9年所得は赤字申告となった場合に、同年齢の平均賃金をもとに、治療期間分604日分の休業損害を認めた事例(岡山地裁H12.3.9)

(事故がなければ、より収入が増加していたと認められる事例)

不動産鑑定士につき、事故後に所得が増加しているが、仕事量を増やすことができないまま事故前に受注した仕事をしていたことが考慮され、事故の前年の所得をもとに、症状固定まで202日間、平均2割の労働能力を喪失したとして、182万円の休業損害が認められた事例(東京地裁H18.10.30)

以上のような事例をみると、裁判上の考え方としては、自営業者の場合は、事故の前年と所得と、事故後の所得を比較し、その差の有無と程度により、休業損害の発生を認めるか否かとその休業損害の額を認定する立場を前提としつつ、仮に、減収がなくても、減収がない理由が、家族の協力の結果であるとか(事故後に、新たな協力があったことを前提にしていると考えられます)、事故後に減収がないことが、事故の前年の営業活動の努力の結果によるもので、事故後、このような営業活動ができなくなったため、相当期間をおいて減収が生じたとか、あるいは、事故がなければ、より仕事を増やすことが可能で、もっと増収が生じたことが、ある程度容易に認められる例について、例外的に、減収がなくても、休業損害の請求を認めていると考えられます。

交通事故による自営業者の休業損害の算定事例

  横浜地裁H27.11.16(控訴中)
事故類型 追突事故
被害者の職業 生花店を経営
認定休業期間 H17.1.21~H17.8.20(212日)
被害者の主張する基礎収入額

35歳~39歳の平均賃金524万9900円+40歳~44歳の平均賃金598万0400円÷2

=561万5150円

事故の前年の事業所得は104万円であるが、それまでの増収の経過を見ると、事故にあわなければ、大幅な増収の可能性があった。

基礎収入認定の理由

H15年決算は、前年(H14)より、約105万円赤字額が減少。H16年には、130万円の増収となって104万1051円の所得が生じた。過去3年間の増収額を前提に、H17年においては、前年の所得を80万円上回る可能性があった。また、被害者は、事故発生後、市職員の試験や、職業訓練を受けて資格を取得する等、就労に対する意欲が強く認められることからすれば、事故前のH16年の事業所得104万1051円に対する増収の見込みを全く考慮しないのは不公平。

 

休業損害算定のための基礎収入額

104万1051円(事故の前年のH16の事業所得額)+80万円(上記理由による増収見込み額)+

1万5600円(租税公課、固定経費)+3万円(減価償却費)+11万3400円(地代家賃)=200万0051円

休業割合 100%。生花店の経営には運転が不可欠なところ、事故による症状のために、運転不可能となり廃業
休業損害の認定額

200万0051円÷365日=5479円、

5479円×212日=116万1548円

上記の事例では、事故の前年の事業所得(生花業)が104万円であるのに対し、被害者の休業損害請求の前提となる基礎収入は、同年齢の平均賃金である560万円で主張がなされています。実際の訴訟の場においても、自営業者の事故前の事業所得は、同年齢の平均賃金と比較すると、少ないケースも多く、そのような場合に、事故に遭わなければ増収の可能性があったと主張され、平均賃金に基づき、休業損害を算定すべきと主張されることも少なくありません。しかし、休業損害は、事故の直後から発生するものですから、事故前の事業所得との連続性が強いことは否定できず、休業損害の算定について、事故前の事業所得額を大幅に上回る所得額を前提にした休業損害が認定されることは、特別な事情がない限り、難しいことの方が多いように感じられます。この裁判例でも、過去の売り上げと所得の推移を参考にしながらも、比較的、抑え目の金額で増収の可能性を認定して休業損害を認定しています。

これに対し、後遺障害が残った場合の、逸失利益を算定する際には、休業損害を算定する場合と比較すると基礎収入をより高めに認定しやすいという事情もあります。なぜなら、休業損害は、事故直後の収入の減少による損害を認定するため、事故前の収入との連続性をある程度、考えざるをえないのに対し、逸失利益の算定の場合には、今後、5年ないし10年あるいは、もっと長い期間にわたり、将来にわたって得られる可能性のある収入を念頭に計算するため、事故前の現実収入との連続性をある程度相対化できるためです。例えば、学生を含む30歳未満の若年者について、逸失利益を算定する際に、全年齢の平均賃金(男性であれば、平成27年平均賃金は年収547万円となります)をもとに計算するのは、このような事情によるものです。

上記の事例でも、14級の神経症状が認定されているため、逸失利益の算定の際の基礎収入について、休業損害と異なる金額を用いる可能性について言及していますが、結論としては、事故当時、転職の予定はなかったこと、労働能力喪失期間も5年を認定する前提であるため、休業損害と同額の基礎収入をもって逸失利益を算定するという結論にいたっています。

それ以外に、休業損害に特有の問題として、事業所得に、固定経費を加えた額を損害と認定するという点があります。この裁判例では、租税公課と減価償却費と地代家賃が固定経費と認定され、休業損害算定の基礎収入に加算されています。

このような固定経費の請求については、休業中も出費を余儀なくされる支出であるため、事故と相当因果関係のある損害であるとの理由により認められるケースが多いですが、被害者が、事故後、早々に廃業したような場合には、もはや支出を余儀なくされる経費も発生しないという意味で、廃業後であると認定された期間については、固定経費分の損害の発生を認めないという考え方も自然ですし、また、少なくとも、廃業したり、あるいは、事業を再開した後の収入を前提とした逸失利益を算定する際には、固定経費分も基礎収入に加えた上で、逸失利益を算定するのは、やや理屈が立ちにくい面もありますが、逸失利益を算定する際の基礎収入は、将来の収入を前提にする面があるため、固定経費を加えた形でやや高めに、同年齢の平均賃金に近づける形で、基礎収入を認定するのは、理由付けはともかくとして、結論として、ありうる形であるということになると思います。

このような固定経費の加算も、上記は租税公課、減価償却費、地代家賃の3項目にとどめていますが、事案によっては、もっと広く固定経費の加算を認める事案もあります。

 

交通事故による休業損害の算定事例

  横浜地裁26.12.26(確定)
事案の概要 H21.3.25発生の追突事故。被害者はトリマーの自営業者。
事故前の収入の状況

① 平成19年、売上854万6000円、売上原価675万3840円、経費520万9897円、赤字額341万7737円

② 平成20年、売上852万3600円、売上原価562万4000円、経費542万5810円、別途水道光熱費84万円を経費に加算すると赤字額336万6210円

③ 平成21年、売上654万5670円、売上原価412万7240円、経費694万7036円、赤字額452万8606円

④ 平成22年、売上554万2040円、売上原価319万円、経費786万0390円、赤字550万8350円

⑤ 平成23年、売上541万9000円、売上原価192万5000円、経費687万9359円、赤字338万5359円

休業損害の認定方法 休業期間中の所得減少額のうち7割を、事故との相当因果関係ある損害と認める
所得減少額の認定方法

事故前のh19年とh20年の赤字額の平均値は339万1973円

①H21年の所得減少額は、同年の赤字額452万8606-339万1973円=113万6633円

113万6633円×0.7=79万5643円

②h22年の所得減少額は、同年の赤字額550万8350円ー339万1973円=211万6377円

211万6377円×0.7=148万1464円

 

休業損害額の認定方法

① h21分の休業損害額

79万5643円×282日/365日=61万4716円※282日は、h21.3.25(事故日)~h21.12.31

② h22分の休業損害額

148万1464円×99日/365日=40万1821円※99日は、h22.1.1~h22.4.9(症状固定日)

 

③ 以上合計101万6537円

 

上記の事例では、被害者は、H19に自営業を始めており、事故の前後を通じて、赤字決算だったようです。しかし、事故前から赤字だったからといって、休業損害が認定できないということではなく、事故後、さらに、事故前と比較して、赤字が拡大したことについて、赤字拡大分の7割を、事故と相当因果関係のある損害と認めたものです。

事故と相当因果関係のある損害と認められなかった赤字拡大分の3割については、被害者が行っていた事業自体の経済効率性の問題や、社会経済状況の変動、同業者の競合による受注減によるものとして、加害者に請求できる休業損害には含めなかったものです。

話が戻りますが、事故前後を通じて赤字にも関わらず、休業損害の請求を認めるのは、事故の怪我の治療のために労働能力が減少しているにも関わらず、事業継続のために、別途、家賃や減価償却費等の固定経費の支出を余儀なくされるという事情も配慮されているのではないかと考えられます。上記事例では、固定経費についての請求額について、触れられていませんが、認定された休業損害額の一部には、固定経費として支出を余儀なくされる金額も含まれていたのではないかと考えることも可能と思われます。

また、事故前後の減収幅を比較する際、被害者の自営業が、平成19年に開業したばかりであったという理由により、h19とh20の決算額の平均値を用いている点も参考になります。

 

いずれにしても、休業損害証明書の内容により、休業損害額の認定が容易な会社員の場合と比較すると、自営業者の休業損害額の認定は容易ではなく、裁判所の裁量が働く余地が広いことが、この事例を見てもわかると思います。

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